文学少女
うつ症状が出てからは本が読めなかった。
まず本を開く気力がない。体が動かない。
もし本のページをめくれても、文字の意味が分からない。
この感覚は本当に不思議で、体験してみないと理解できないと思う。
例えば「私は家から駅まで、ゆっくりと歩いた。」
この文章を見たときに、「わ」は分かる。
「私」は一人称を意味しているのが分かる。
「私は家から」ここまでくるともう頭の中で処理ができない。
頭の中では、「わたしはいえから、わたし、わたしは自分のことで、いえから、いえから、いえ、から、家、自分の住む場所。あれ?さっきはなんて書いてたっけ、わ、た、し、の、自分の家ね、そこからどっかに行こうとしてるのか。」こんな感じ。
言葉の意味はなんとなく、朧気に、分かる筈。
でも文節が三つ四つと続くうちに何を書いてるか忘れ、その状態が続くと遂に目が文字の上をすぅー、と滑っていく。それに気づいてもう一度。それでも駄目で、更にもう一度。
それを繰り返してようやくピースがハマったようにきれいに意味がわかる。
そしてまた新しい文章が出てくる。
まあ私はだいたいこんな感じだった。
そのときは一度読んだ本を何度も何度も読み返した。
ラストシーンも終わりの言葉もわかっているのに何度も読み直した。
なので今の私が好きな本は昔から何度も何度も読んでいる時代遅れの小説ばかりだったりする。